新規開業に事業譲渡が選ばれる理由

お医者さんが独立開業を望まれる場合、通常、内科医の開業を例にとれば、場所の特定から始まり、内装費用、機械購入、器具備品、保証金、従業員の募集費など一切を含めて7千万円から1億円くらいの支出を伴う。それに、開業してすぐに患者さんが来てくれるとは限らず、経営が軌道に乗ったとしても安定するまでには、数年はかかるだろう。

そこで、一から開業よりも、すでに実績のある医院を、丸ごと買ってしまうという手法が、迅速でかつ経済的な選択、戦略となる。

さてこの場合に生じる売主と買主の会計処理や税務上の取り扱いにつてお話しする。

何を譲渡するのか?

個人の医業の事業譲渡の場合、譲渡する財産はまず貸借対照表上の資産と負債であるが、通常、負債は対象とはならず、
①建物内装一式、機械、器具備品などの減価償却資産と
②雇用契約関係(従業員)の引継ぎ、それと、
③営業権(超過収益力)
となる。

①の減価償却資産については通常、簿価で譲渡される。
②の雇用関係については基本承継されるが新しい経営者との面接などで話し合いが必要となる。
③の営業権については、その評価方法が決まっておらず、現存するカルテの枚数や年間売上、年間課税所得などから、総合的に判断して評価します。カルテの内容も譲渡側のお医者さんの年齢によっても価値は変わってくる。また、収益力の評価についても、売上で見るのか、最終利益(専従者給与を含む)で見るのかによっても変わってくる。

営業権の所得税の取り扱い

営業権(のれん)はある種の超過収益力を表すもので、患者カルテやノウハウ、ブランド、従業員の人的能力などを総合的に評価したものです。個人医院の場合、患者カルテの枚数も大事ですが、患者の年齢なども影響します。

この営業権は所得税法上、減価償却資産となり、その売買損益は総合課税の譲渡所得となります(所得税法33条1項)

譲渡所得の計算

  • 短期譲渡所得 ; 総収入金額-取得費-譲渡費用-特別控除=譲渡所得
  • 長期譲渡所得 ; (総収入金額-取得費-譲渡費用-特別控除)×1/2=譲渡所得

ここで、短期とはとは購入後5年以内の売却の場合で、長期とは5年以上となります。

ただし、自己創設のれんの場合は長期と解釈されます。

また取得費に関しては通常不明な場合は5%計上できますが、自己創設のれんの場合、取得原価はゼロとなります(所得税基本通達38-16)。