不動産市況が好転してきたので、郊外の一戸建てに住んでいた人たちも、古家を売却して、都心部のマンションに買い替えるケース、あるいは、相続で取得した親の古家を売却して現金化するケースが増えている。

こういった場合、税務上注意すべき点がいくつかある。一つは所得税の譲渡所得計算上、取得原価を建てる必要があるので、原始取得時の契約書が必要となる。地価高騰時のバブル時に購入した不動産は、今でも当時の価格を上回ることがないから、譲渡益が発生することは稀ではある。しかしそれでも、取得時の契約書がなければ、大変なことになる。取得原価を証明するエビデンスがなければ、単純に取得原価は売却価格の5%となるから、5,000万円(手数料は考慮しない)で売却すれば(5,000万円-5,000万円×5%=4750万円)に対して所得税が掛かってくる。居住用長期譲渡所得としても、3,000万円控除後の1,750万円に対して、所得税15%、住民税5%がかかってくる。これだけで300万円になる。取得時の契約書を失ったときどうするかであるが、かなり不利になることは確かである。もちろんこのような場合でも、依頼があれば、われわれは税務のプロであるから、困った人を助けるために最大限の工夫はする。

いずれにしても、購入時の土地の売買契約書や、建物の請負契約書、建築確認申請書などのエビデンスは絶対に保管しておかなければならない。

次に、問題となるのが、土地と建物の売価である。この場合、建物の評価は、築30年以上も経つと、著しく減価するので、土地4700万円、建物300万円といった具合になるが、契約書上では土地と建物を区分している場合と、一括で表示している場合がある。

これは、実際にあった話であるが、当初、仲介業者から、土地、建物一体で5000万円という話を聞いており、事前の契約書上でも一括で5000万円となっていた。そして、その売価に十分満足していた。しかし、実際の契約書を見てみると、土地3500万円建物1500万円となっているではないか?建物価格が時価からあまりにかけ離れている。仲介業者は買主とグルで、建物価格を高くすることで、話をまとめていたのだろう。この時の買主は法人だったので、建物価格を高くすれば、減価償却資産が増えるので、減価償却費も増え、法人の節税に貢献する。また、建物にかかる消費税は仕入れ控除できるので1500万円×8%の120万円が還付される。

建物時価が300万円とすれば、(1500万円-300万円)に対する法人実効税率35%の420万円と消費税の120万円の540万円の税金を買主にプレゼントしたことになる。こんなに、買主にメリットを与えるならば、売買価格も上げてもらわなくては理屈が合わないだろう。もっとも時価300万円の建物を1500万円で売れば、もはや合理的な経済取引ではなく、税務上のリスクも発生するだろう。

いやいや、本当に不動産業者は油断も隙もない。わたしもバブル時代にはとんでもない業者や取引に立ち会ったが、相変わらず、不動産業者と不動産取引には細心の注意を払うべきだと痛感した。不動産売買契約書には、きっちりと、建物と土地を区分し、かつ、時価で表示することをお勧めする。

平成29年2月10日   文責;増井 高一