もう20年以上前の話である。大阪府M市の方で、当時の時価評価で50億円ほどの不動産を所有している資産家の息子さんがクライアントにおられた。その方は相続対策に熱心な方で、銀行や証券会社が開催する種々のセミナーに参加された。そして、不動産の有効利用が一番効果的と考え、土地の上にいろいろなものを建て、事業展開していった。
カラオケボックス、トランクルーム、パーキング、アパートなどなど。しかし、どの事業も建築資金がかかる割には利回りが良くなかった。事業はすべて借金で行っているから、返済が必要だが、赤字続きで、返済に回らず、結局、不動産を売却しなければならなくなった。しかし、土地神話はすでに崩れ、価格は下がる一方だったので、かなりの損を出して事業を閉じられた。あっという間に財産は1/5程度になってしまった。結局、何もしないほうがよかったということになる。皮肉な言い方をすれば、相続財産そのものが激減したのだから、究極の相続対策になっていたのかもしれない。
まあ、ジョークはこれくらいにして本論に入ろう。親の財産をいかにして、多く、子供に移転するかである。こんなアイデアはどうだろうか?
まず、お父様の現金1000万円を会社に出資し、さらに6500万円を貸付けて、お父様の財産を法人に移動する。そのうえで何らかの事業を営みながら、子供(3人と仮定する)を役員にして、役員報酬で分散していく。仮に事業損益ゼロだったとして、配分を給料で行うと、一人当たり30万円で7年支払えば30万円×12か月×3人×7年=7560万円、この分法人には赤字つまり繰越欠損金がたまることになる。そこで、お父様は、法人に対する貸付金6500万円を債権放棄するというプランである。これで、出資金の1000万円と合わせて、7500万円を相続財産から外したことになる。
給与に対して、源泉所得税や社会保険料が25%くらいかかってくるだろう。もし、一人当たりの相続財産が5000万円以下なら、相続税の実効税率は20%くらいなので、こんなことをせずに、単純に相続したほうが有利である。しかし、一人当たりの相続財産が1億円を超えるとなると話は違ってくる。この場合、相続税の税率は40%~50%を超えてくるから、所得税や社会保険料を支払っても、最終的な手取りが多くなる。
つまり、こんなシンプルな相続対策でも、それなりの効果はあるということである。これに、暦年贈与対策を加えれば、プランにもっと幅が出るだろう。
ここで注意すべき点は、債権放棄という行為の税務上の問題である。まず、法人に繰越欠損金があれば、債務免除益に対して法人税はかからない。ただし、株主間で贈与税の問題が生じることがある。つまり、債務免除した金額だけ法人の純資産は増えるので、株式評価が上がるからである。しかし、このケースでは債務超過の法人になっているから、株価はゼロに等しく贈与の問題は起こらない。心配ならば、債権放棄する前に、株式を子供に贈与してしまうことである。
また、死亡直前の債権放棄には注意したほうがよい。それだけで、租税回避ではないかと疑われる。よくあるのが、認知症になってしまった親に無理やり債権放棄させるケースであるが、当然に無効である。いずれにしても、債権放棄をするならば、早ければ早いに越したことはない。