相続対策として、賃貸マンションを建てることが増えているが、その場合にすべての部屋が満室となるとは限らないので、一時的に空室となっている部分につき、相続税の財産評価上、他と同様に貸家建付地などの評価減ができるのかどうかにつき、曖昧な点が残る。

この争いにつき、大阪地裁は5月11日に、「賃貸されている期間の長短は、特に重要な考慮要素となる。」とし、事案では空室期間が5か月にも及んでおり、一時的な空室部分とは言えないとした。以下、問題点を整理しよう。

1 賃貸アパートにおける貸家ならびに敷地(貸家建付地)の評価(財産評価通達26、93)

  1. 貸家の価額=自用の家屋の価額-自用の家屋の価額×借家権割合×賃貸割合(注1)
  2. 貸家建付地の価額=自用地の価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合(注1)
  1. 賃貸割合=課税時期に賃貸されている各独立部分の床面積の合計

/その貸家の各独立部分の床面積の合計

分子の中には一時的な空室部分も含まれるが一時的な空室とはどんな場合を言うのか。

2 一時的な空室の範囲とは(質疑応答事例)

一時的な空室部分が「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されなかったと認められる」部分に該当するかどうかは、次のように判断される。

  1. 各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか
  2. 賃貸人の退去後速やかに新たな賃貸人の募集が行われたかどうか
  3. 空室の期間、他の用途に供されていないかどうか
  4. 空室の期間が課税時期の前後1か月程度であるなど一時的な期間であったかどうか
  5. 課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうか

などの事実関係から総合的に判断される。

3 大阪高裁の見解(平成29年5/11)

一時的な空室部分とは例外的な取り扱いであり、賃貸されていない期間は重要な判断要素となる。継続的に賃貸の用に供している状態にあるという理由のみで例外的な扱いはできない。本件の空室期間は、もっとも短い場合でも5か月であり、「たとえば、空室の期間が前後1か月程度」にとどまらずに、むしろ長期間に及んでいるから、「一時的」なものであったといえない。

4 今後の対応

土地の有効利用などで、評価減を図る相続対策においても、空室が多くなれば、不利になる。もともと、オーナーはマンション全体を賃貸目的で建設したわけであるから、空室が出ればすぐにテナント募集をかけるはずである。その結果、新しい入居者が入るためには通常、数か月は要するであろう。この期間が1か月というのは短すぎると思うが、だからといって5か月なら長期になるという見解も厳しい。単なる例示としての1か月なのか、形式的に1か月を超えればだめなのか、5か月で長期なら、2、3、4か月はどうなのかという悩ましい問題はまだ残っている。