1 電機、電子、半導体会社の財務分析比較
シンプルな財務分析数値で、日本を代表する電機、電子、半導体企業を比較してみる。
? 売上高 ? 税引き前利益 ? 自己資本 ? 有利子負債
の4種類の数値で、2016年4月~2017年3月期の業績見通し数値を採用する。
税引前売り上げ利益率と有利子負債対自己資本率を横に記載する。
単位億円
会社名 | ? 売上高 | ? 税引前利益 | ? 自己資本 | ? 有利子負債 |
信越化学 | 12,000 | 1,670(13%) | 19845 | 124(0%) |
村田製作所 | 11,150 | 1,560(13%) | 13315 | 427(3%) |
日本電産 | 1,2000 | 1,650(13%) | 8333 | 2,809(33%) |
京セラ | 14,100 | 1,280(9%) | 23,150 | 253(1%) |
三菱電機 | 42,000 | 2,800(6%) | 19,404 | 3,720(19%) |
日立製作所 | 90,000 | 4,300(4%) | 28,847 | 12,636(43%) |
パナソニック | 73,500 | 2,600(3%) | 18,352 | 11,248(61%) |
ソニー | 76,000 | 1,960(2%) | 24,529 | 12,384(50%) |
富士通 | 45,000 | 1,300(2%) | 8095 | 6,110(75%) |
NEC | 26,800 | 300(1%) | 7,588 | 5,126(67%) |
シャープ | 20,500 | △271(△1%) | 2,851 | 6,350(222%) |
東芝 | 48,700 | △9,500(△19%) | △2,600 | 11,800(∞%) |
2 財務分析から見えるもの
以上の分析比較をすれば、各企業の収益力と財務基盤が一目でわかる。収益力が高く、財務基盤が手厚い企業は、上から、信越化学、京セラ、日本電産、村田製作所、三菱電機の順となる。特に信越化学と村田製作所は、収益力?も高いうえに、借入金?がほとんどない。ただし、これらの会社は電子部品、機器や半導体のメーカーで電機メーカーではない。
日本における典型的な総合電機メーカーである、NEC,ソニー、パナソニックは利益率?が非常に低い。
こうした「何でも屋的な総合電機メーカー」は、中国を含む新興アジア企業の価格競争に負け、しだいに競争力を失い、じり貧傾向にある。そんななかで、シャープは液晶テレビに特化しようとして失敗した。そして、東芝は、原子力ビジネスに大舵を切ったのだが、見るも無残な負け方である。
3 東芝の現実と将来性
さて、東芝の分析数値を見てみよう。すでに2,600億円の債務超過になっているので、これを解消しないかぎり、やがて東証一部から締め出され、存続も危うくなる。IR報告書には債務超過については、メモリ事業への外部資本導入により解消する予定とある。
東芝はすでに利益部門である医療部門をキャノンに6,655億円で売却している。フラッシュメモリー事業は年間1,000億円以上稼ぐ東芝で最後の優良部門である。この最後の牙城を他社へ明け渡したなら、もはや東芝の実態は消滅したも同然だ。
そもそもの失敗は何だったのだろうか?やはり、そのすべては、2006年度のウェスチングハウス社(WH社)の買収に端を発する。当時の情報によれば、2,000億円くらいの価値しかない WH社を3倍の6,000億円くらいで買ったということである。なにを血迷ってこんな高い買い物をしなければならなかったのか、訳が分からない。当初、WH社が描いていた原子力発電所の新規受注「保守的に見ても46基」はまったくの絵に描いた餅だった。WH社の経営内容は当時すでにかなり悪かったようだ。この時、東芝は、どの程度真剣にWH社の中味を吟味したのだろうか?WH社は買収時点で、すでに腐ったリンゴか毒まんじゅうだったのである。
しかし、このWH社という「毒まんじゅう」は、本体の経営の悪化から、もう一個の「毒まんじゅう」を抱えるようになった。WHグループは、福島原発事故以来、新規受注が取れないばかりか、すでに受注していた工事まで、トラブルが続き、子会社であるS&W社は、電力会社から、追加工事を保証するというオプションまで組まされていたのである。それらの巨大な損失が一挙に噴出したのが今期2017年3月期の決算見通しである。
東芝経営陣は、WH社やS&W社におけるこのような複雑な取引を、どの程度理解し、あるいは取引に関与していたのかさっぱり分からない。おそらく、WH社を買収はしたが、その経営の中味にまで深く関わっていなかったのでないかと思われる。つまり、東芝経営陣はまったく利益の出ないWH社に幻想を抱き続け、現実を見つめず、粉飾し、損失を先送りしていただけである。損失を落とす「減損会計」ではなく、甘い「幻想会計」を続けていたということである。もっと、現実を直視しておれば、早い段階で、小さな損失で済ますことができたのかもしれない。
いずれにしても、東芝の歴代の経営陣の無能さ、無責任さにはあきれる。自己の保身や権力派閥闘争に明け暮れ、真実から目を遠ざけ、一日でも永く延命しようとした。2006年あるいはその数年前から、WH社にかかわった一連の経営陣がもたらした罪は、万死に値する。
東芝の失った財産は計り知れない。その収益部門、知的財産、人材の喪失、信用失墜、19万人の従業員の経済的損失、精神的ダメージ、投資家(株主)の投資損失など。
そして、それは言い換えると、その分、日本の財産を失ったということだ。
まさに「東芝の危機は日本の危機」なのである。残された日本の優良企業は、外国企業や政府に騙されたり、また、カモにされないよう、細心の注意を払うべきである。世界の国と企業が、蟻(あり)のようにコツコツと蓄積した日本の富を、キリギリスのように、虎視眈々(こしたんたん)と狙っているからである。