相続税対策の基本となる戦略は二つしかない。それは、第一に財産または財産評価を減らすこと、第二に財産を生前に移転することの二つである。ただし、これらは時間をかけて丁寧に実行することが肝要である。つまり、相続税を回避するために、一時的かつ劇的な方法は、できるだけ避けたほうが良いということになる。
第一の戦略の代表的なものとしてタワーマンションの購入がある。これは、購入したマンションの相続税評価額が取得価額より著しく低く評価でされることを利用したものである。建物部分は固定資産税評価額で、土地は路線価で評価されるという基本は変わらないが、タワーマンションでは高層階に行くほど、建物部分の比率が大きくなり、実勢価格と評価額のギャップはますます大きくなる。住宅用か賃貸用(収益物件)かによって異なるが、仮に2億円で購入したマンションの評価額が25%とすれば、2億円-5千万円=1億5千万円の差額に対する相続税実効税率(仮に40%とする)と6千万円の節税になる。
単純に考えるとすごい節税戦略であるが、それなりにリスクもある。
この戦略について、考えられるリスクを列挙してみよう。
1 マンション価額が将来値下がりするかもしれないリスク。
マンション価額が将来売却するとき、著しく下がっていないかである。実際、価額が30%下落していたなら、2億円のマンションは1億4千万円となり、6千万円の損失であるから、少しも得したことにはならない。
とくに、全額、借入金で購入した場合は、売却までの金利がキャッシュアウトとなり、銀行さんだけが得したことになる。
マンション価額が、将来、上昇すると読んでいる人は、それはそれでよい。最近は東京オリンピックまでは上がると考えている楽観派が多いようである。ただし、マンション価額を構成する大半は建物であるから、時の経過とともに価値は下落する。そもそも、マンション価額が下がらない状況のほうが異常なのである。

2 収益物件(賃貸物件)として、購入する場合の考慮事項
まず、利回りを取るか、売却しやすさを取るかであるが、利回りに関していうと、最近の収益物件の利回りは3%以下まで下がっている。つい、数年前までは6%以上回るものが普通だった。これはすでにマンション価額が天井に近づいていることを示す。ただし、バブル絶頂期では1%の利回り物件でも普通に取引されていたが。
利回りがいいものは、建物が古く、今後、価値の下落が早いといえる。相続対策として利回りは悪くても、新しくて高級な物件がいいということになる。

3 相続直前に本人の意思を無視して購入していないか。
普通の人は自分が死ぬことを前提にした相続対策に興味がない。そこで、相続が起こる寸前に将来の相続人等が、慌てて、相続対策を施す。しかし、とくに本人が認知症などにより、意思能力をなくしている場合、不動産の購入する意思もなければ、契約の当事者になれない。この場合は、経済取引上は売買が成立していても、相続税上は購入金額そのままで評価される。

4 相続直後にただちに売却していないか?
厳密には、法的には問題にはならない。しかし、相続直前に購入、相続直後に売却というのは、相続税回避と見られても仕方がない。そもそもの購入の目的は何だったのか?
銀行金利が低いので収益物件を購入したのか、将来の値上がりを見込んでなのかなど、本人が明確なビジョンを持って購入していることが大事である。

5 税制改革、見直しの可能性
タワーマンションの評価について、相続税評価方法のが、今秋以降、見直される可能性が大である。とくに、高層階マンションについて、今までより高く評価されるようである。