1 本人が思っているほど価値はない

わたしも若いころ(40代のころ)は、絵画が好きでよく買った。気に入った画家の個展が開かれるとよく見に行き、画商に薦められて高い絵を買ったこともある。好きな絵を事務所や自宅に飾るのは気持ちの良いものだ。とくにわたしは海の絵が大好きで、大空と海、波間に浮かぶ船などを観ていると妙に心が落ち着く。

ところが、絵画はいくら気に入っていても、いつか飽きる。それで、数年経つと掛ける絵を変えたくなる。そして前の絵はお蔵にしまい込んで、いつか忘れ去られる。なぜかもう一度掛ける気はしない。その絵を掛けていた時代のいろんな思い出などが蘇って嫌なのである。

つい最近、そんな昔の絵を画廊にいくらなら引き取ってくれるか値踏みしてみた。

そして、その値段を聞かされて愕然とした。なんと、200万円で買った絵が、たったの7万円である。結局その絵は友人のレストランに進呈した。明るい絵なのでその店では人気を博しているようである。

2 税理士も税務署も困る書画骨董の評価?

相続税の申告において、書画、骨董を評価しなければならないことが何度かあって困った。

もちろん取得原価で評価しておけば無難なのだろうが、わたしは、過去の経験から、絵画の価値が取得原価以下であると確信しているので、他の何らかの評価をしなければならないことになる。その場合、相続税法上の評価額は時価ということになるが、この時価の判定が難しい

客観的評価ということになればオークションに掛けるしかないが、売る気がないのにオークションにかけるわけにもいかず、オークションに掛けなければ落札価格は分からない。つまり客観的な時価は存在しないということになる。そこで20年くらい前までは親しい画廊などにお願いして評価してもらっていた。画廊の評価であるから、ある程度の信頼性はある。

過去、この評価で申告して、税務署からクレームはなかった。この場合はもちろん画廊の引取価格である。

最近はインターネットの発達により、無償で評価をしてくれる画廊が増えた。もちろんそのことがきっかけで、売買が成立することもあるので、十分元は取れるのだろう。ネット上では、その評価がより高い方がお客様からは喜ばれるので、少し高い価格で提示されることになる。その意味では意外と客観的な時価が示されるのかもしれない。最近はこの評価額で税務署に申告している。

さて、税務署側ではどうかというとこれも厄介なことには違いない。相続税評価のためにその都度、専門家に鑑定評価してもらうのもお金もかかるし手間も大変であろう。ピカソやゴッホの絵ならまだしも、その辺の画家の絵など元より大した価値はない。価値があると思っているのは、せいぜい買った当人だけである。その人はいまや亡くなっている。

3 保存状況によって価値は変わる

書画、骨董は保存状態が大事である。非常に傷みやすいので厳格な保存状況を維持しなければならない。それと、贋作でないことを証明するのが大変である。本人の署名や裏判入りであること共シールがあること箱書きがあること鑑定書があることなどで、それらがなければ、価値は半減するか、ただ同然となるので要注意である。相続で引き継がれた書画骨董もこれらがない場合が多く、このような場合、評価はゼロに近くなる。

結論から言うと、書画骨董の評価額は取得原価のおよそ20%以下となり、極端な場合は5%ほどになることもある。

ついでに述べると、宝石、貴金属の類も実際の価値は、買った値段の20分の1以下だと考えて間違いない。簡単に言えば、書画、骨董、宝石貴金属も本人が業者に騙されて買い、本人が価値あるものだとひたすら信じて込んでいるに過ぎない。